Since 1999 Copyright (C) ru All rights reserved.

   



a short, small, good story 99'


.........................................................................

1.うちわ

「なんかさぁ インパクトがたりないんじゃないの?」と 
うちに一枚しかないウチワをパタパタ仰ぎながらハルが言った。
暑い。
座っているだけで汗が毛穴から染み出る。

ハルと初めて会ったのは2年前、
真夏のクラブイベントでとなりに座ってた僕のウチワを奪って 
その日僕がカワイイなと遠目で気にしていた女の子を連れ出して
自分の彼女にしてしまった いけすかないヤツだった。 
それから何度かクラブでハルと顔を合わせるようになり 
気がつくとどうゆうわけか彼と僕はよくふたりでツルむようになっていた。
いまハルはその彼女といっしょに暮らしていて 
仕事もそこそこ忙しくフツーのサラリーマンとして社会に貢献している。
恋も仕事も順調なハル。問題はこの僕。

「インパクトだよ。それから意欲。カワには意欲ってもんが感じられないんだよ。」
僕は無職だった。半年前会社のリストラに会い 
それ以来職に就けないでいる。
明日は26回目の面接があるのだ。
彼はなかなか就職できない僕に見かねて親切にアドヴァイスにやってきたのだ。
「インパクトって? クマの着ぐるみ来ていくとか 
シルクハットの帽子からハト飛ばすとか?そんなことしたって企業は採用してくれないよ。」
僕はそう言いながら 面接時に 
そんな不謹慎な人生をナメ腐ったヤツが本当に存在したら世の中ちょっとおもしろいなと思った。
「でも相手の印象には残る。絶対残る。生涯語り継がれる。伝説になる。」
「バカげてる。僕は伝説なんかどうだっていい。
だた職に就きたいだけだ。
僕と猫一匹が細々と生活できるだけのささやかな仕事でいいんだよ。平穏に暮らしたいだけだよ。」
「そんなこと言ってるから 意欲が感じられないんだよ カワは。」
その通り。僕には意欲ってものがかけらもないのだ。
そして29年平穏に生きてきて 
いまここで僕の意欲が大問題になっているのだ。

「あー 暑いよ。カワんち せんぷうきないのかよぉ。買えよ。首振りの、リモコン付きのヤツ。」
ハルはそう言ってパタパタパタッとウチワを大きく振りながら 
気をきかして僕のほうにも風をくれる。
せんぷうきは就職祝いにハルにねだるつもりだったのに 
もうあと半月で秋だし涼しくなりそうだ。

ハルの仰ぐウチワはなまぬるい湿った風しか発しなかった。



..........................................................................


>>back | next<<



女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理